収斂進化から考える、ヒトの次に強い生物とは?
現在の地球上で最強の生物はホモ・サピエンス、すなわちヒトだと思っています。
外敵や競合が多い環境に生息する生物の中には、それらが少ない場所(極端に寒い場所や食料が少ない場所など)を目指すものが出てきます。例えば、温かいところに住んでいた生物が、意を決して極寒の地を目指したとします。もちろん、環境の変化が激しすぎてすぐに住み着くことは困難なので、まず少し寒いところで体を慣らし、適応したのち、やっと極寒の地に入ります。この間、ざっと数十万年。何世代もかけて進化し、別の生物になってからやっと挑戦できるのです。
ところが。
ヒトはこれを数世代、数十年のうちにやってしまいました。他の生物が気の遠くなるような年月をかけて一生懸命伸ばした毛をサクッと奪い、服にすることで悠々と極寒の地に入ることができたのです。灼熱の地域でも、食料が少ない地域でも同様です。ヒトは頭と手を使うことで、数十万年の時を一気に飛び越え、地球のあらゆる地域に拡散しました。
以上が、『地球上最強生物はヒトである』といった理由です。
さて。
そうなってくると、1つ疑問が湧いてきます。
ヒトの次に強い生物は何なのかと。
鋭い牙を持つ百獣の王・ライオンでしょうか。陸上で最大の巨体を持つゾウでしょうか。
私の考えは違います。私は、ヒトに最も近い生物がヒトの次に強い生物だと思っています。
少し話が逸れますが、収斂進化(しゅうれんしんか)というものをご存知でしょうか。
※ハリネズミとハリモグラを題材に、収斂進化について書いた記事はこちら
簡単に説明します。
ハリネズミとハリモグラはどちらも針のある見た目そっくりの動物ですが、生物学的には全く違います。ハリネズミはモグラの系統ですし、ハリモグラはカモノハシの系統です。もちろん、背中に針のある動物がハリモグラとハリネズミに進化したのではなく、外敵が多い環境で、小さな丸腰の動物がそれぞれ自らの身を守るにはどうしたらよいかを一生懸命考えた末、『背中に針を生やす』という同じ結論に至った結果です。
生息する環境によって、系統が異なる生物が同じ特徴を持つこと。これが収斂進化です。
先ほど述べたとおり、私は『ヒトに最も近い生物がヒトの次に強い生物』だと思っています。ヒトに最も近い生物とは、ヒト(ホモ・サピエンス)に最も近種の生物ということではありません。物理的にヒトの近くで生活している生物。
そう、イヌです。
イヌに、ヒトと同じ収斂進化が起きる可能性はゼロではありません。
仮に、イヌが「寒い冬に温かいものが食べたい」とか「汗を流したあとに冷たいジュースが飲みたい」などと本気で思い、それを実現する方向に進化したとしましょう。
まず、次第に前足の指が変型して物を掴めるようになり、手を使うことで脳が発達します。するとすぐに直立二足歩行を獲得し、さらには舌が短くなり、いつしか遠吠えではなく、言葉によってコミュニケーションを取るようになります。そして、当たり前のようにヒトとも会話ができるようになり、会社に出勤するヒトを「いってらっしゃい」などといって見送り、ソファーに腰掛けてゆっくりとコーヒーを味わったりします。まさに貴族。
しかし、そんな優雅な生活も長くは続きません。ヒトは少子高齢化によって絶滅してしまうからです。イヌは人間が残した文明をそのまま引き継ぎ、一生懸命働きます。
そんなとき。文化庁勤務になったあるイヌが、過去の記録の中から、舌を出して四足で歩いていた自分たちの祖先の映像を発見します。「これはバズる!」と確信したイヌは、すぐさま祖先の動画をツイッターに投稿します。すると、ものすごい勢いで拡散し、動画とともに投稿した『おれら実写版グーフィーwww』というテキストが流行語大賞にまでなるのです。
しかし、この物語は決して実現することはありません。
なぜなら、『そんなイヌは気持ち悪い』からです。指が伸び始めた時点で、ほとんどのヒトがイヌを手放すでしょう。ヒトと同じ環境でなくなったイヌは収斂進化することなく、イヌの常識の範囲内でひっそりと進化するのです。
というわけで、ヒトの次に強い生物は確定しませんでした。しばらく、ホモ・サピエンス一強状態が続きそうです。